FF9 RTA史 - 概論 -


この稿は緊急公開につき、その性格上まとまりに欠けており、また史実に対して多少意訳的になり得ることをご了承ください。このように書き急いだのも、歴史としては浅いものの把握しておくべき事項があるからです。執筆にあたり、その道の方よりお知恵を拝借いたしました。この場を借りてお礼申し上げます。

2010年12月26日 / 起草

 

1.はじめに

■ やり込みの深化にコミュニティあり

低レベルやTAに代表されるやり込みは、詳しくは分からないが、少なくともこの15年のうち半分は、木村昌弘さんをはじめとする一流やり込み人が中心となって昇華されてきた。その集大成がやり込みの総本山とも云われるULTIMAGARDEN。
ネットの普及にしたがい、やり込みの伝え方はVHS録画の雑誌への投稿から自サイトでのレポート発表へと変容した。情報交流が素早くでき、やり込みに広がりができた訳である。掲示板やレポート投稿といったコミュニティによる貢献である。この大きな流れにおいて、レポートは重要視された。これにより多くの人が先人の考えから学び、過去の技術を洗練するといったことが可能になり、内容が高度になる程にレポートは詳細に書かれるようになった。参考にした先人の偉業に対する敬意も払われる等、やり込みのつながりが見える時代であった。

 

■ FF9やり込みの早熟

FF9の歴史を辿ると、その前身は「いっしょにTALK!」でありこれが原点である。交流も盛んであり、何より情報の中心だった。(社会的背景)
そこには詳細なデータがあり、低レベルもその難易度の低さから、自力で戦術を組み立てられる程である。ただし、レポートの需要は高く、早期に発表された英さんやkasaneさんの攻略レポートは重宝されたであろう。新規参入のやり込み人も多く、また発売後1年経たずして完成の域にまで達した。なお、この頃から戦闘理論を用いた「解析攻略」がFF9を越えて広まっていく。
一方、TAはスノースさんのエクスIIチャートを柱に、シリアスさんやデンデンムシさん、あきさん、ぷーすけさんらが中心となって、短縮案を考案しては試行錯誤と検証を重ね続け、最終的にはFUMIZOさんの手により完結した。これも1年以内、早熟である。

 

■ コミュニティの変化

このようにコミュニティのやり込みに与える影響は大きい。しかし、これはやり込み人たちの間のことであって、世間一般の求めるところからすれば相当に乖離していたことは注意に値する。十分にやり込みの育ったサイトの掲示板に、「この敵を倒すにはどうしたらよいか」といった内容の質問が後を絶たなかったことを顧みれば、そうした温度差は感じられるはずである。
近年、コミュニティの形に変化があったのは記憶に新しい。動画サービスの提供により、手軽にゲームプレイを公開し楽しめる体制が整ったのである。世間一般の参入のしやすさがここにあり、特にFF9におけるRTAの変遷を捉えていく中で、この動きを見逃す訳にはいかない。

 

 

2.幕開け

■ RTAのFFへの導入

新たなやり込み「RTA」は、もともとはDQを中心に活発に行われていた。(FFはFF9やFF12で2、3の前例あり)
2006年8月、東京大学ゲーム研究会による「FINAL FANTASY 12作連続RTA」によって、FFにRTAが大々的に導入された。一般にFFのクリア時間は40〜50時間程度であるが、それが10時間程度でのクリアが実証された。この大幅に短縮される様は異様だったに違いない。これを機にRTAがFFで実施されるようになった。
この頃のやり込みの伝え方のひとつに実況文字中継があった。コミュニティ手段のひとつであったチャットをやり込みの中継として活用したものである。プレイ経験者の脳内シミュレーションにより、やり込みの疑似体験といった動的な印象を与えたのも効果が大きかったといえよう。
この企画でFF9をプレイしたのは同会員のクロウさん。FF9究極解析にも精通し、これまでの低レベルやTAの動向をよくご存知の方である。アビリティや属性の活用、「リミットグローヴ」習得、錬金術、エルメスのくつ入手などの通常行われるやり込みの知識を動員し、企画を通してFF9RTAの総括的な戦術指針を示した。

 

■ ULTIMAGARDEN

それ以降、ブログや個人サイトの日記によって「RTAをやった」という事実のみが乱立していく。真意は確認できないが、レポートを書く面倒さの回避というよりは、「快適攻略」や「通しプレイ」のつもりだったと思われる。
そのような中、ULTIMAGARDENにきちんとしたレポートとして投稿したのが、すこぼんさん、Touch_meさん。一気にFF9RTAの記録を引き上げ、クリア時間の目安 < 10:30.00 > を提示した。RTAに関する情報が十分に整理できていない中で、戦略の吟味の重要性と課題を十分に認識していたに違いない。
例えば、Disc1の錬金術の活用はすこぼんさんは省き、Touch_meさんは行っている。この影響のひとつに難所である土のガーディアン戦がある。すこぼんさんは「夜」、Touch_meさんはリフレクトリング装備による対応で、戦略上の明らかな違いを見ることができる。また、前者は「リミットグローヴ」、後者は「突撃」の積極的な活用を戦術の大枠としているが、それら各々の是非を問うているのは指導的である。
レポート上では、エンカウント回数やリカバリーの方法、アイテム調達、コマンド入力などの細かな点まで公開し、RTAにおいて大切にすべき視点を残した。これは2007年後半から2008年にかけての出来事だった。

 

■ 幕開け記録

日付 記録 達成者 ソース 備考
2006/08/17 12:25.00 クロウ 実況文字中継 PS2 [ SCPH-30000 ]
2007/09/18 10:34.30 すこぼん レポート PS2 [ SCPH-50000 ]
2008/01/18 10:29.13 Touch_me レポート PS2 [ SCPH-75000 ]

※ 計測は、電源ONから「THE END」表示まで。ムービーカットは使用しない。

 

 

3.舞台の転換

ここまでのことは一度忘れ(!)、舞台を動画共有サイトへと移そう。
すべての動向を完全には追えず、またすべてを追う必要もないだろうから、一部の主要な部分のみ取り上げて、その変化を見ていく。特に、戦略的な変化が非常に興味深いところである。始まりは2009年8月下旬。

 

■ ニコニコ生放送とコミュニティ

2009年8月29日に開催された第4回「生主RTA対決」においてFF9のRTAが配信された。内容はエクスカリバーII取得クリアで、記録狙いというよりもエンターテイメント性の高い企画ものである。そのため、下位の者への罰ゲームといった遊び要素が盛り込まれており、この第4回対決ではプレイタイトルでもあったFF9生プレイに焦点が当てられ、ニコニコ動画でFF9RTAが広まるきっかけとなった。
広まったとはいえ、この頃はムービーカットも使用してよく、スノースさんのエクスIIチャートがかなりのウェイトを占めたであろうから、むしろTA的である。また、FF9に関する知識自体が乏しく、FF9の最終局面の対応策もない状態だった。記録も13時間を切るかどうかである。2001年頃の全盛期のやり込み活動に比して、2009年9月のこの現状は赤子のようである。
さて、ニコニコ生放送においては新しく「エクスカリバーII ニコ生連合」というコミュニティが誕生した。主催はしあさん。上記の第4回「生主RTA対決」をFF9の第1回大会として、このコミュニティにて「FF9RTA大会」が開催されるようになり、FF9RTAの地位を確立していくことになる。この頃からムービーカット不使用、PS2高速読み込みといった標準ルールが適用されていくことを附記しておこう。

 

■ 救世主、現る

遊び感覚のRTAは10月に入ってから状況が一変した。れいりんさんが < 11:31.36 > と記録を大幅に上げたのだ。このときはオリジナルの戦術のようだが、その後はすこぼんさんやTouch_meさんによる戦術や工夫を取り入れて基礎を構築した。攻撃陣の固定化や「突撃」の有効活用法、錬金術、メニュー画面での入力の簡素化などの細部にも注意を払って、練習を重ねて徐々に記録を伸ばしていった。これが初めてやり込みらしさが導入された瞬間であろう。ULTIMAGARDENに収められた知識がようやく普及することになり、記録も11時間台へと移り変わっていく。
そうした移り変わりの中、トマトごはんさんがれいりんさんの記録を塗り替えた。このときの戦術はスノースさんのチャートを手本としていたようで、今にして思えば、RTAとしての改善や工夫を怠るな、という教訓として響くものである。なお、れいりんさんの快進撃は続き、11月に行われた「第2回FF9RTA大会」においては < 10:30.04 >、その翌週には最速記録の < 10:28.23 > を叩き出した。

 

■ なんでも実況とPeerCast

FF9において、現在残っている最古のRTA記録はPeerCastにある。ニコニコ動画でコミュニティが盛んになる6ヶ月も前のことだ。なんでも実況VIP板@2chにおいては、ニコニコ生放送の盛り上がりと同時期から記録されていくが、これらサイトはニコニコ動画とは完全に別舞台であった。どちらの動画サイトにもRTAプレイヤーが数名いたものの、コミュニティがなく発展性に欠けたのが残念でならない。
この頃の記録を簡単にまとめてみると、ニコニコ生放送の遅れが目に映る。一方、別舞台で元ハンサムさんとああうさんが既に最先端を走ってはいたが、記録の更新具合からみて、そうしたトッププレイヤーでさえ < 10:30.00 > を切るのは至難の業であったことも伺える。ULTIMAGARDENの記録が破られるまでにこれだけ時間が掛かったのは、単に実力の問題だけではあるまい。

 

■ 舞台の転換記録

日付 ニコ生放送 なんでも実況 PeerCast 「ニコ生」の備考
2009/03/15     13:27.13
ロック
 
09/05 12:40.58
taka_o_a
    第1回FF9RTA大会
この頃の標準13:00.00
09/16   11:28.38
元ハンサム
   
10/01 11:31.36
れいりん
    「なん実」では既に11時間切り
10/20     10:50.27
ああう
 
10/28   10:36.40
元ハンサム
   
11/08 11:04.19
トマトごはん
    れいりんさんの更新を受けて?
この頃の標準12:00.00
11/19 10:28.23
れいりん
     
11/23     10:29.25
ああう
この頃の壁11:00.00

※ 大きな流れを意識しているため、重要な部分の記録のみを挙げた。

 

 

4.技術の洗練

2010年。前年のゆっくりと移り行く流れとは対照的に大きく揺れ動いた時代である。タイムばかりが先行していたために、安定性やオリジナリティの高い戦略の重要性を示そうとする幾人ものプレイヤーが埋もれてしまった事実があることを忘れてはならない。

 

■ 元ハンサムさんの存在

ニコニコ生放送の眼鏡越しに映る世界では、その存在の見えざるは霧に隠れたるさまに似たり。
2010年になってすぐの1月4日、最速記録 < 10:22.39 > を打ち立てた。ところが、この新記録にすぐに気付くプレイヤーが皆無だったことを指摘しておく。3月にhandsomelivesさんがこの記録の動画をYouTubeに投稿した。このことや記録面を考慮すれば、なんでも実況の元ハンサムさん、PeerCastのああうさん、YouTubeのhandsomelivesさんの3名は同一人物と推測される。
さて、彼は柱にしていたTouch_meさんの戦術から多くを学び、より洗練された形に仕上げた。Disc3でのパーティ分割の工夫、Disc1においてクイナを仲間にしない方法 --- 「クイナカット」の呼称が似合う --- などを展開して完成度を高めている。前者により安定性が高まり、後者はDisc1において7分程度のタイム短縮が見込まれる。また、戦闘システムへの理解の深さも特長的で、攻略の随所に現れていた。
元ハンサムさんのプレイ方針は面白く特筆に値する。読み込みの早い薄型PS2が主流のご時世であるにも関わらず、SCPH-50000の厚型、連射機は用いないという徹底ぶりである。こうした精神は見習いたいものだ。

 

■ 「クイナカット」の洗練

タイム志向の強いニコニコ動画においては、「クイナカット」によるタイム短縮は認知の範囲であった。同時期に、オレコさんが発明あるいは発見していたためである。ところが、この方法がすぐに広まることはなかった。これまでの「リミットグローヴ」に頼る戦術からの変更策が見出せずにいたことが原因と思われるが、そもそも戦術の検討という習慣がなかったことは押さえておくべき事実である。
そのような中、ニコニコ生放送では大きな動きが見られた。2月の「第3回FF9RTA大会」が終了すると、大会参加者だったTAKE COVERさんとトマトごはんさんによって「クイナカット」の洗練が始められたのである。この動きはこれまでにない変化であり重要である。
リミットグローヴ神話からの脱却に、彼らの出した答えは「夜」戦法であった。これは、れいりんさんの方針を軸に組んだ戦術に対して、フライヤの弱点を克服するものとして昇華した。特にDisc3における各戦術が自然な形で1本につながり、攻略の柱がひとつ完成した。そして4月4日の最速記録 < 10:17.32 > をもって実を結んだ。これはニコニコ動画の成果として評価されるべきものであるが、この方針は永くは続かなかった。

 

■ 外部の静かな闘争

さて、別舞台に住まう元ハンサムさんは常に安定性を重視した構成でRTAに臨んでおり、リフレクトリング2個の合成 --- したがってDisc1での錬金が要! --- は彼のRTA戦略の象徴である。トマトごはんさんの記録に触発されてか、しばらく停止していた活動を開始し、細部を詰めて最速記録の更新を続けた。6月頃からはDisc1での錬金を省いて、自身の攻略チャートを洗練させ、6月10日には10時間切りに迫る新記録 < 10:01.39 > を樹立した。なんでも実況を中心に活動していたが、この新記録はPeerCastとYouTubeにて公開された。
これに対抗するは、裏舞台のStickamやUstreamで活動したacm951さん。RTAをやり込みとして意識した数少ないプレイヤーで、戦術的には元ハンサムさんの影響下にあるが、オリジナルもあり、ダメージ計算や戦闘理論の深い知識を動因した「解析プレイ」を一貫した。緻密な計算に加え、常に無駄を排除する姿勢がその記録を支えた。例えば、1月の < 10:15.-- >、4月の < 10:06.32 > に加え、5月には世界初の10時間切りといったタイム的偉業がある。

 

この頃は、元ハンサムさんの戦略アイディアやacm951さんの記録動画がニコニコ生放送の次世代プレイヤーに伝わった時期でもあり、彼らの戦術指針の多くがニコニコ動画を通じて伝播していく。動画に対するタイムリーな投稿コメントが、その直接的な効果から印象度が高く、強力な情報源として機能したことは想像に難しくない。
Disc1錬金の省略と「クイナカット」によるタイム短縮、Disc3の難所に「夜」ではなくリフレクトリングで対処など、戦略の一本化が進んでいった。そうして10時間台が標準となり、トッププレイヤーは至高の壁 < 10:30.00 > を越える記録を出していく。

 

■ ニコニコ新鋭の登場

8月に開催された新人戦「第4回FF9RTA大会」で頭角を現したのは、hasumoさんとおっしーさんの2人である。トマトごはんさんの4月の記録を塗り替えようとした次世代プレイヤーとして共通するが、RTAに対する思想は非常に対照的であるのが面白い。
hasumoさんはオリジナリティや安定性を優先する思想の持ち主である。これはFF9の知識を知性=知恵に変えたから為せる業だろう。Disc2においてダンタリアンを撃破してエルメスのくつを入手する方針 --- 「嫁チャート」と呼ばれている --- は、彼の代表的プレイスタイルであり、安定性を考慮して開発された新路である。他に、デザートエンプレス内のミニゲーム短縮攻略法も興味深い。その「魅せる」プレイはRTAの醍醐味を伝えるものである。
対するおっしーさんは「最速」に魅了されたプレイヤーで、そのための努力は惜しまない性格と思われる。6月頃からの主流戦略により、相当量の経験を積むことで9時間台を射程圏内にした。記録の更新に練習量がモノを言うことは、これまでの歴史が証明している。ところで、11月の最速記録 < 09:43.49 > は43回というエンカウント回数の少なさに恵まれた記録であることに注意したい。ニコニコ生放送としては珍しく、一時的ではあるがチャートを一般公開した。

 

■ 技術の洗練記録

日付 おっしー hasumo トマトごはん 外部における最速
2010/01/04       10:22.39   元ハンサム / なん実
04/04     10:17.32  
06/10       10:01.39   ああう / PeerCast
07/07 10:12.19      
07/23       09:50.19   acm951 / Ustream
09/01   10:09.05    
10/03     10:08.40  
10/06 10:07.11      
10/10   10:04.16    
11/10 09:43.49      

 

 

5.文化と思想、その先に

FF9RTAは、ULTIMAGARDENに代表される庭文化から、ニコニコ動画をはじめとする若き動画文化へと渡った。その若さから勢いもあり、企画的な広がりを見せているところである。記録や戦略がかくも大きく移り動いたことは驚愕に値するが、そこに、かつての「古きを温ねて、新しきを知る」文化が廃れてしまったように感じ、少し寂しく思うのは筆者だけではあるまい。
しかしながら、文化圏の違う中で庭文化の先駆的な技術を導入し、積極的に普及活動に努めたれいりんさんと元ハンサムさんの功績は大きく、その思想を失う訳にはいかない。少しでも多くのFF9RTAプレイヤーにこうした流れがあったことを知る機会となれば、この稿もいささかも無用ではなかろう。願わくは、FF9RTAの更なる進展を。

 

当面の限界は < 09:30.00 > だろうか


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